球磨村に位置する渕田酒造本店は、球磨焼酎の中で最も下流に位置し、日本有数の巨大な鍾乳洞「球泉洞」の近くにあります。一世紀以上の歴史を持つ現役の蔵で、外観には看板もなく、意識して訪れなければ焼酎蔵とは気づきにくい控えめな佇まいです。しかし、一歩中に入ると、時の流れが育んだ風格と精悍さが漂っています。 明治41年（1908年）、肥薩線の鉄道建設に伴い、一勝地の入り口にあった創業当初の蔵から現在の場所へ移転。その際、創業時から使用していた甕も丁寧に運び込まれました。麹造りから洗米、醸造に至るまでの工程を、昔ながらの手造りで丁寧に行い、人吉・球磨の伝統である甕仕込みの焼酎造りにこだわり続けています。 作業場は、麹室や蒸留器がある母屋とモダンな赤レンガの蔵で構成されており、中には20もの甕が整然と並び、一次仕込みと二次仕込みが行われています。明治2年（1869年）、渕田嘉左衛門氏が明治政府から焼酎醸造の許可を得て創業。「嘉左衛門茶屋」として親しまれ、歴史の古酒が今も甕や樽の中で静かに眠っています。

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