醸造アルコールとは?
日本酒のラベルに「醸造アルコール」と記載されているのを見たことがある方もいるでしょう。日本酒には、米、米麹、水のみで造られる「純米酒」と、さらに「醸造アルコール」が添加される酒があり、大きくこの2種類に分かれます。ここでは、醸造アルコールとは何か、またその役割や効果について詳しく解説します。
1.醸造アルコールの定義と由来
醸造アルコールは、主にサトウキビの廃糖蜜やトウモロコシ、サツマイモなどを原料とし、発酵させて蒸留したアルコールのことです。国税庁による定義では、「でんぷん質物または含糖質物を原料として発酵させ、蒸留して得られるアルコール」とされています。通常、アルコール度数は95%程度まで濃縮され、ほぼ無味無臭であるため、原料由来の風味はほとんど残っていません。醸造アルコールは主に大手のアルコールメーカーが製造し、酒蔵が購入して日本酒の製造に使用しますが、近年では自家製の醸造アルコールを作る蔵元も増えています。
2.醸造アルコールを添加する目的
「アルコールをわざわざ添加する必要があるのか」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、醸造アルコールの添加にはいくつかのメリットがあります。
すっきりとした味わいに仕上げる
醸造アルコールは無味無臭であるため、日本酒に特有の旨味を軽くし、全体の味わいをすっきりとさせる効果があります。特に、本醸造酒や吟醸酒など、飲みやすくクリアな味わいを目指す日本酒において、醸造アルコールの添加は大きな役割を果たします。飲み口が軽く、幅広い料理との相性が良くなるため、特に食中酒として人気があります。
香りを引き立てる
酵母によって生まれる香り成分は、水よりもアルコールに溶けやすい性質があります。このため、醸造アルコールを添加することで、日本酒の香りが引き出されやすくなり、吟醸香などの華やかな香りが際立ちます。特に、フルーティーで芳醇な香りが特徴の吟醸酒や大吟醸酒において、醸造アルコールはその香りを引き立たせる役割を担っています。
安定した品質の保持
醸造アルコールは、日本酒の保存性を高める効果もあります。アルコール度数が高まることで雑菌の繁殖が抑えられ、品質が安定しやすくなるため、保存性が求められる日本酒には適しています。もともと、江戸時代には火落ち菌の繁殖を防ぐために、焼酎を添加する「柱焼酎」という技法が行われていました。これが醸造アルコール添加の始まりともされており、腐敗を防ぐための工夫から発展してきた技術です。
2.醸造アルコールの添加タイミング
醸造アルコールは、日本酒の製造工程において、もろみ(発酵中の液体)を搾る「上槽」の直前に添加されます。もろみを搾った後にアルコールを加えることは、酒税法の規定により認められていません。この添加のタイミングや量は、酒蔵ごとのノウハウや工夫によって異なり、蔵ごとの個性を生み出す要素ともなっています。
3.醸造アルコールが含まれる日本酒の種類
醸造アルコールが添加されている日本酒は、精米歩合や製法に応じていくつかの種類に分類されます。以下に、代表的な日本酒の種類とその特徴を紹介します。
吟醸酒・大吟醸酒
吟醸酒や大吟醸酒は、醸造アルコールが添加されており、華やかな香りと澄んだ味わいが特徴です。精米歩合はそれぞれ60%以下、50%以下で、米をしっかりと磨くことで雑味が減り、クリアな味わいが生まれます。吟醸香と呼ばれるフルーティーで芳醇な香りを楽しむことができ、アルコール添加によりさらに香りが引き立つため、特別な日の一杯として愛されています。
本醸造酒
本醸造酒は、精米歩合が70%以下の米を使用し、醸造アルコールを添加して仕上げた日本酒です。スッキリとしたキレのある味わいが特徴で、一般的には手頃な価格で楽しめます。特別な製法や60%以下の精米歩合で造られるものは「特別本醸造酒」として区別され、さらに高い品質が保証されることもあります。
普通酒
吟醸酒や本醸造酒、純米酒に分類されない日本酒は、一般に「普通酒」と呼ばれます。普通酒にも醸造アルコールが添加されることが多く、軽い飲み口が特徴です。日常的に飲まれることを前提としているため、飲みやすく、価格も比較的リーズナブルに設定されています。
4.醸造アルコールに対する誤解とその理由
醸造アルコールについて、「体に悪いのではないか」という誤解を持たれることがあります。このイメージの背景には、戦後の「三増酒(三倍増醸酒)」の影響があるとされています。三増酒とは、米不足の時代に、日本酒に醸造アルコールや甘味料、酸味料などを加えて3倍に増やした日本酒です。この時代の増醸酒が広まったことが、醸造アルコールに対する否定的なイメージを生む一因となりました。しかし、現在の酒税法では三増酒の製造は認められておらず、また、現在の醸造アルコールは高純度で無害であるため、健康に影響を与えることはありません。
5.醸造アルコールと日本酒の個性
醸造アルコールの添加は、単なる量増しではなく、日本酒の風味や香りに変化をもたらし、酒の個性を形成する重要な要素です。例えば、吟醸酒のフルーティーな香りを引き立たせたり、軽やかでクリアな飲み口を作ることができるため、酒蔵ごとの独自の味わいや香りを表現するために工夫が凝らされています。
実際に、「全国新酒鑑評会」では、多くの金賞受賞酒が醸造アルコールを添加した吟醸酒や大吟醸酒であり、添加することで酒質が高まることが認識されています。これは、醸造アルコールが日本酒の品質を向上させるための重要な技術であることを示しています。
6.まとめ
醸造アルコールは、日本酒の製造において、すっきりとした味わいや香りを引き出すために使われる重要な成分です。アルコール添加には保存性や香りの向上など、多くの利点があり、日本酒の魅力をより豊かにしています。醸造アルコールを添加した日本酒には、吟醸酒や本醸造酒などがありますが、どれも独自の味わいと風味が楽しめるものばかりです。
日本酒には、醸造アルコールを添加したものと添加しない純米酒がありますが、どちらも魅力的な個性を持っており、それぞれの違いを理解しながら楽しむことで、日本酒の奥深さを味わうことができるでしょう。