日本ワインの産地 北海道

日本ワインの産地 北海道

 

 1.世界が注目する日本ワインの銘醸地:北海道エリアのワイン産業

日本においても、ワイン産地としての注目度が高まっている北海道。冷涼な気候と独自の栽培環境、そして先進的なワイン造りが結びついたこの地域では、多様なワインが次々と生まれ、国内外で評価を集めています。ここでは、北海道ワインの歴史、産地としての特徴、主な栽培品種、最近の動向について、北海道エリア全体の魅力を深掘りします。

 2.北海道ワインの歴史と発展

北海道におけるワイン造りの歴史は、他のワイン産地と並ぶほど長く、1876年に札幌でヤマブドウを原料にワインが造られたことが始まりとされています。しかし、当時のワイン需要が少なかったことから一旦途絶えてしまいます。その後、1960年に十勝地方の池田町で再びワイン造りが開始されました。十勝ワインは日本で初めての自治体直営ワイナリーとして地域活性化に貢献し、北海道全体のワイン産業発展の礎となりました。

 

1970年代にはヨーロッパ品種の栽培が始まり、余市町など果樹栽培が盛んな地域で本格的なワイン用ブドウの栽培がスタート。2000年代以降、ワイナリー設立が急増し、現在では北海道全域でワイナリーが約50軒以上も存在しています。ワイン生産者の規模も多様で、大手メーカーから家族経営の小規模ワイナリーまでが活躍しており、各ワイナリーが個性豊かなワインを生み出しています。

 3.北海道ワインの特徴と気候

北海道は、日本の他のワイン産地に比べて冷涼な気候が特徴です。北緯42度から45度に位置し、冷涼かつ湿度が低く、降雨量が少ないため、ブドウの病害が少なく済むことがワイン造りにとって大きな利点です。加えて、台風や梅雨の影響も少ないことから、農薬の使用を最小限に抑えた無農薬・減農薬栽培が行いやすい環境です。

 

北海道特有の気候が、ブドウの「酸」を保ちやすいこともワインにとって好条件です。日中の温度差が大きく、ブドウが完熟しても酸が下がらないため、シャープな酸味とフレッシュな果実味が特徴のワインに仕上がります。雪が積もる冬には、樹を雪の下に埋めて凍害から守るという独自の方法が取られています。雪によって寒さが緩和され、ブドウが寒さから保護されるため、この地域独特の「雪中保管」方式が、北海道のワインを一層魅力的なものにしています。

 

 4.北海道ワインの主な栽培品種

北海道の冷涼な気候に適応したブドウ品種が多く栽培されています。以下に北海道で栽培されている主要なブドウ品種を紹介します。

ケルナー

ドイツで生まれた白ブドウ品種で、黒ブドウのトロリンガーと白ブドウのリースリングを交配して誕生しました。アロマティックでみずみずしい酸味が特徴で、辛口ワインから甘口、スパークリングまで幅広く利用されています。北海道では特に余市エリアで多く栽培され、冷涼感のあるエレガントなワインが生まれています。

ミュラートゥルガウ

ミュラートゥルガウもドイツ原産の白ブドウで、フルーティーな香りと穏やかな酸味が特徴です。ニュートラルな味わいで食事に合わせやすいワインが多く、若いうちに飲むことが推奨されています。北海道の冷涼な気候が、この品種にさらなるフレッシュさを加えています。

シャルドネ

世界的に有名な白ブドウ品種で、北海道でもその栽培が進んでいます。酸味を生かしたスッキリとしたスタイルから樽熟成によるふくよかな味わいまで、多様な表現が可能です。近年、シャルドネの栽培が増えており、今後も成長が期待される品種です。

ピノ・ノワール

北海道の冷涼な気候は、栽培が難しいと言われるピノ・ノワールにも適しており、後志や空知地方での栽培が拡大しています。北海道産のピノ・ノワールは、繊細で優雅な酸味と旨味が特徴で、国内外で高い評価を受けています。

ツヴァイゲルトレーベ

オーストリア原産の黒ブドウ品種で、北海道の気候に適応し、ベリー系のアロマと軽快な酸味が魅力です。フレッシュで軽やかな飲み口から、タンニンを効かせた力強いスタイルまで、多彩なワインが造られています。

ナイアガラとキャンベルアーリー

ラブラスカ系の品種で、ナイアガラやキャンベルアーリーも北海道で栽培が行われています。フルーティーで甘い香りが特徴で、最近ではスパークリングワインやオレンジワインの原料としても人気があります。

 

 5.北海道ワインの主な産地

後志地方(余市・仁木など)

後志地方は、余市町や仁木町を中心に「北のフルーツ王国」として知られる温暖な地域です。余市では1980年代からピノ・ノワールの栽培が始まり、現在では高品質なワインが生産されています。道内初のワイン特区として認定された余市には多くの新規ワイナリーが参入し、現在では15軒を超えるワイナリーが集まっています。後志地方は、ケルナーやピノ・ノワール、シャルドネといった品種が多く栽培され、品質の高さから国内外で評価されています。

空知地方

内陸部に位置する空知地方は、浦臼町や岩見沢市、三笠市などを中心にブドウ栽培が広がる地域です。山崎ワイナリーや近藤ヴィンヤードなどの個性派ワイナリーが多く、各ワイナリーは独自のスタイルを追求し、混醸(複数品種をタンクで一緒に発酵させる手法)による土壌の反映を重視したワイン造りが特徴です。また、10Rワイナリーのブルース・ガットラブ氏が先駆けとなり、カスタムクラッシュワイナリー(委託醸造)による後進の育成も行われています。

道南エリア(函館)

道南エリアには、1973年創業のはこだてワインや、カリスマ的存在である農楽蔵ワインなどがあり、近年自社畑を開設するワイナリーが増加しています。また、フランスの老舗ドメーヌ・ド・モンティーユが函館に進出したことでも注目を集めています。この地域では、ナチュラルワインや無農薬栽培に取り組むワイナリーが多く、その品質と独自性から全国的な評価を受けています。

その他の地域(富良野、十勝、道東)

富良野のふらのワインや十勝の十勝ワインは、行政が手掛けるワイナリーとして地域に根付いた存在です。また、道東エリアでは十勝ワインが独自品種「山幸」「清舞」などを使ったワイン造りを行っており、日本で初めての自治体直営ワイナリーとして北海道ワイン産業のパイオニア的存在です。

 

 6.北海道ワインを支える取り組みと最近の動向

GI北海道

2018年には、北海道が地理的表示(GI)制度において認定されました。この制度は、「産地名の使用基準をクリアし、地域のブドウを100%使用したワインのみが北海道産と名乗れる」もので、北海道ワインのブランド化に寄与しています。

 

北海道ワインバレー構想

2022年に発表された「北海道ワインバレー構想」は、道と北海道大学が連携し、世界に通用するワイン産地を目指す取り組みです。「北海道ワインプラットフォーム」を通じてブランド化や販路拡大の支援を行うほか、「北海道ワイン教育センター」を設立し、栽培や醸造、販売に関する研究と教育を強化しています。

 

ワインツーリズム

北海道は観光資源を活用し、ワインツーリズムにも力を入れています。余市や仁木では「農園開放祭」としてワイナリーやブドウ畑を巡るイベントが開催され、地元産のワインを楽しむことができます。また、池田町や空知エリアでもワインイベントが行われ、観光とワインを結びつけた地域振興が進んでいます。

 

 7.まとめ

北海道ワインは、冷涼な気候と豊かな自然環境、歴史と共に発展してきた産地特有の個性を持ち、国内外で評価が高まっています。後志や空知、道南など地域ごとの特色が反映されたワインが次々と生み出され、地域に根ざしたワインツーリズムも盛り上がりを見せています。土地に根付いた開拓スピリットと豊かな自然環境が、個性豊かなワインを生み出しており、今後も北海道ワインのさらなる発展が期待されます。