日本ワイン 代表品種(在来品種)

日本ワイン 代表品種(在来品種)

 

1.日本ワインの在来品種

日本ワインの在来品種で代表的なものとして、「甲州」と「マスカット・ベーリーA」が挙げられます。これらは日本独自の品種であり、国内外で高い評価を得ている重要な品種です。それぞれ異なる特徴と魅力を持ち、日本の気候や風土に適応して発展してきました。以下では、この2つの在来品種の歴史、特徴、ワインとしての表現について詳述します。

 

2.甲州:日本を代表する白ワイン用ブドウ

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甲州は日本固有の白ワイン用ブドウ品種で、日本ワインの代名詞ともいえる存在です。800年以上前から栽培されてきたと考えられ、長い房に灰色がかった淡い紫色の実が特徴です。「甲州」は、シルクロードを経由して中央アジアから日本に伝わり、日本の風土に適応して進化したとされます。近年のDNA分析により、この品種が約70%以上欧州系のヴィニフェラ種であることが明らかになり、日本の在来種としての位置づけをさらに強固にしました。2010年には、国際ブドウ・ワイン機構(OIV)に日本産品種として初めて登録され、欧州市場への輸出が進み、国際的な評価が高まっています。

 

甲州のワインはその繊細な味わいが特徴で、柑橘系や桃のようなフルーティーな香りを持ちます。口当たりは爽やかで軽やか、ほどよい酸味とわずかな苦味があり、特に和食との相性が抜群です。そのため、寿司や天ぷら、刺身など日本の伝統料理と組み合わせると、相互に引き立て合う味わいが楽しめます。日本のワイナリーでは、甲州をさまざまなスタイルで表現するために、多様な醸造方法が試みられており、近年ではオレンジワインや樽熟成のワインなど、幅広い甲州ワインが登場しています。

3.甲州ワインの醸造スタイル

甲州は他の白ブドウに比べて果皮がやや厚いため、果皮から香味成分を抽出する醸造スタイルも多様です。代表的なスタイルを以下に挙げます。

 

  1. 甲州醸しスタイル(オレンジワイン)

   甲州は、果皮や種を果汁に浸け込み発酵させる「醸し」という製法が行われ、古くから勝沼地区でこの技法が使われてきました。この製法では果皮からタンニンや色素が溶出し、美しい琥珀色のワインが造られます。オレンジワインとも呼ばれるこのタイプの甲州ワインは、豊かな深みとしっかりとした口当たりが特徴で、脂の多い食材や風味の強い料理との相性が良いです。

 

  1. ステンレスタンク醸造

   甲州の柑橘系の爽やかな香りやフレッシュな味わいを最大限に引き出すために、ステンレスタンクでの醸造が一般的です。この方法により、甲州の持つピュアな香りと酸味が保たれ、刺身や軽めの和食と合わせやすいワインになります。すっきりとした味わいで、甲州の爽やかさが引き立つスタイルです。

 

  1. 樽熟成  

   甲州ワインには、樽で熟成させることで複雑味や奥行きを持たせるスタイルもあります。樽の香りが加わることで、甲州のフルーティーな香りに加え、香ばしさやリッチな風味が生まれます。熟成の度合いや樽の材質により、さまざまな個性が現れるのも特徴です。樽熟成の甲州ワインは、濃厚な料理や西洋風の料理ともよく合います。

 

  1. ブレンドワイン

   繊細な味わいの甲州は、他の品種とのブレンドにも適しています。例えば、アロマの強い品種とブレンドすることで、甲州の柔らかい風味を生かしながらも、新しい味わいが生まれます。ワイナリーごとに異なるブレンドの工夫が施されており、甲州の可能性を広げる一つのアプローチとなっています。

 

4.マスカット・ベーリーA:日本を代表する赤ワイン用ブドウ

 

もう一つの代表的な在来品種が「マスカット・ベーリーA」です。これは、新潟県で「日本ワインの父」と称される川上善兵衛氏によって1927年に開発された黒ブドウ品種で、ベーリー種とマスカット・ハンブルク種を交配させて誕生しました。この品種は耐病性・耐湿性に優れ、日本の気候に適した特性を持つため、山梨県や山形県、長野県などの主要産地をはじめ、全国で広く栽培されています。

 

マスカット・ベーリーAは、甘いキャンディ香やイチゴのようなフルーティーな香りが特徴で、軽めで柔らかい味わいのワインが造られます。タンニンが少なく、早飲みタイプの赤ワインとしても親しまれていますが、熟成を経た力強いワインや、ロゼ、スパークリングワインにも用いられることがあり、多様なスタイルで表現されることが魅力です。また、2013年には国際ブドウ・ワイン機構(OIV)に品種登録され、甲州に次いで世界に認められる日本産品種となりました。

5.マスカット・ベーリーAの醸造スタイル

マスカット・ベーリーAも多様な醸造スタイルで表現され、日本独自の赤ワイン文化を豊かにしています。代表的なスタイルを以下に紹介します。

 

  1. フルーティーでライトな赤ワイン

   典型的なマスカット・ベーリーAのワインは、キャンディやイチゴの甘い香りを持ち、軽やかな飲み口が特徴です。酸味やタンニンが穏やかで、飲みやすくフルーティーな味わいは、多くの日本人に親しまれています。軽い料理や和食にも合わせやすく、赤ワインの入門編としても人気です。

 

  1. 樽熟成

   樽で熟成することで、深みのあるマスカット・ベーリーAのワインが生まれます。樽香と果実味が調和し、複雑な風味と奥行きを持つワインに仕上がります。肉料理などにも合わせやすく、通常のマスカット・ベーリーAとはまた異なる魅力を楽しめるため、熟成された重厚な赤ワインを求める方にも支持されています。

 

  1. ロゼワイン

   マスカット・ベーリーAの果皮を短期間浸漬させて造るロゼワインも、軽やかで爽やかな味わいが特徴です。フルーティーな香りと美しい色合いが楽しめ、夏場には冷やして飲むのに最適です。また、和洋問わずさまざまな料理と相性が良いことも魅力です。

 

  1. スパークリングワイン

   マスカット・ベーリーAは、スパークリングワインの原料としても優れています。華やかな香りと軽やかな味わいが、スパークリングにぴったりと合い、乾杯の場面や祝い事にふさわしいワインに仕上がります。

 

  1. ブレンドワイン

   マスカット・ベーリーAも、他の品種とのブレンドで個性を引き出す品種です。独特のフルーティーさや軽やかなタンニンを活かし、ブレンドによってさらに複雑な風味を持たせたワインが造られています。ブレンドワインでは、マスカット・ベーリーAの柔軟な特性が活かされ、さまざまなタイプの味わいが生まれます。

 

甲州とマスカット・ベーリーAは、日本ワインを象徴する在来品種であり、それぞれが持つ特有の風味と日本の食文化との相性が注目されています。甲州は柑橘系の香りと繊細な味わいが和食にぴったりで、マスカット・ベーリーAはフルーティーで飲みやすい赤ワインを提供します。これらの在来品種は、日本の風土に根ざし、日本ワインの国際的な評価向上にも寄与しています。日本独自のワイン文化をさらに発展させるためにも、これらの品種は今後も重要な役割を果たしていくことでしょう。